これまでコンクリート内の鉄筋腐食の確認は、はつり出しを行うか、
電気化学的手法(自然電位法)を用いて腐食確率を求める方法が主でした。
自然電位法はコンクリートの含水率や鉄筋との接触状態により測定値に大きな誤差が生じるため、信頼性に問題がありました。
交流インピーダンス法を用いて分極抵抗から鉄筋腐食速度を求める方法もありますが、低周波インピーダンス(抵抗)の測定に一点あたり10分以上の時間を要することから、広範囲での使用には向きませんでした。
これら上記の方法では、一部鉄筋をはつり出して接続しなければならず、完全非破壊で鉄筋の腐食動態を知る方法はこれまでありませんでした。また、測定時にはコンクリートは湿潤状態に保たねばならず、30分間の水撒き作業や乾燥してきた場合なども対処が必要でした。
iCORは、コンクリート内部の鉄筋腐食速度、コンクリート表面電気抵抗率および自然電位(※自然電位で測定する場合ははつり出し必要)を同時に測定できるコンパクト探知器であり、その特許技術により完全非破壊で鉄筋腐食速度をわずか数秒で測定することができます。
またワイヤレスセンサーを介して測定データをタブレットに送信し、タブレット付属のアプリケーションでデータ処理後、コンターマップ(等高線図)を作成し、Wi-Fiを通じてその結果を事務所などに送信することができることから、従来の鉄筋腐食測定法に比べ、時間・人的資源・費用が大幅に削減することが可能です。
コンクリート内部の鉄筋の腐食は、電気化学反応に起因しており、陰極(カソード)から水酸化物イオンが、また陽極(アノード)から鉄イオンが放出されます(下図)。その際、陽極から陰極に電子が移動することにより電位差(自然電位)が発生します。
この鉄筋とコンクリートの境界面付近で行われる一連の電荷のやり取りには抵抗が存在し、これを電荷移行抵抗 Pc4と呼びます。鉄筋の腐食速度は、この電荷移行抵抗 Pc4の大小によって支配されます。
図1 コンクリート内の鉄筋腐食
鉄筋腐食量 W(mg/cm2)は、ファラデーの法則より、腐食電流密度 Icorr(A/cm2)と
その経過時間 tに比例し、(1)式のように表されます。
W=A・Icorr・t …(1)
A:電気化学当量(金属によって決まる定数;鉄 0.2894mg/C)
腐食速度 icorは、(1)式の右辺の経過時間tを左辺に移動することにより求めることができます。
腐食速度 icor=W/t=A・Icorr …(2)
これより腐食速度(μm/year)は、腐食電流密度 Icorrにより決まり、
この腐食電流密度は、下図に示す電荷移行抵抗 Rc4を測定することにより求めることができます。
図2 iCOR(4電極法)による鉄筋コンクリート内の電気回路図
iCORは、上図(図2)に示す外側2つの電極間に電流を印加し、内側2つの電極で電圧を測定します。鉄筋が腐食していない場合、測定された電圧は高周波よりも低周波数時に高くなりますが、鉄筋が腐食している場合、その電圧変化が小さくなります。
iCORでは、この周波数の高低によって生じる電圧の差を測定しています。しかし、低周波インピーダンス(抵抗)を1波長分測定するためには、0.01Hzで100秒と非常に長い時間を要します。また、低周波インピーダンスはノイズに対して脆弱であるため、それをフィールドで直接測定することは非実用的でした。
そこでiCORは、上図(図2)に示す、外側2つの電極間にステップ電圧を印加し、高いサンプリングレートで内側2つの電極間の電圧を測定することにより、計測に時間のかかる低周波インピーダンス応答を抽出し、最長10秒という短時間での測定を可能にしました。
またコンクリート表面電気抵抗率も、従来の方法では内部の鉄筋を伝って電流が流れてしまうため、iCORでは上図(図2)のRc2、Rc3およびRc4からコンクリートの等価抵抗を計算し、直下の鉄筋の影響を排除することにより正確な値を得ることに成功しています。
この技術は、非接触電気パルス応答解析“Connectionless Electrical Pulse Response Analysis (CEPRA)”と呼ばれ、GIATEC社の特許技術となっています。
株式会社大林組様 技術研究所報 No.82 2018にCEPRA法が掲載されています
鉄筋交差部6点×6点、計36点(10sec/点×36点×縦横)での測定時間は、電磁波レーダ ストラクチャスキャン SIR-EZを用いた鉄筋配置、かぶり深さ、鉄筋径計測から、iCORによる4枚のコンターマップ作成まで約1時間でした。
おそらく一点10分以上かかる従来法では、一部はつり出しが必要であり、測定だけでも最低720分必要であることから、準備からコンターマップの作成まで3日以上が必要になるでしょう。
またiCORでは、竣工時から定期的な腐食速度を測定することにより、現在の鉄筋腐食量を得ることができ、耐用年数の推定にも使用することができます。
なお鉄筋腐食測定には、正確な鉄筋位置、鉄筋かぶりおよび鉄筋径が必要です。ストラクチャスキャンSIR-EZシリーズと併用することでより良い結果得ることができます。
図3
生コンクリート打設時にNaClを混入して製作した試験体での測定結果
上段:コンクリート表面電気抵抗率
下段:腐食速度(左:横筋/右:縦筋)
今後KEYTECでは、高性能電磁波レーダ【ストラクチャスキャンSIR-EZ】シリーズのソフト・ハード面でのさらなる進化とあわせて、完全非破壊型鉄筋腐食速度探知器【iCOR】やその他の最新非破壊検査機器の開発およびこれら機器の融合により、様々な角度からコンクリート内部を透視できるよう「新たな挑戦」を続けてまいります。
はつり不要 水撒き不要 ワイヤレス
鉄筋を露出する必要がない完全非破壊型であり、計測部と本体がワイヤレスで、ケーブル長さに影響されず、広範囲の探査が可能です。これにより従来の鉄筋腐食探査法に比べ、時間・人的資源・費用を大幅に削減することができ、あわせてコンクリート構造物へのダメージを大幅に軽減することも可能となりました。
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